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Voice Tec Vocal Art Science Laboratory

ヴォイステック音声研究所

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研究 STUDY


声の研究には多くのアプローチの仕方があり、私もいくつかの研究を行ってきました。
学会等で発表したものを少しずつわかりやすくご紹介していきたいと思います。


1.音声障害の臨床的研究
 私の音声外来には、今日まで1万人程の方が受診されています。まざまな職種の方が来院されていますが、なかでも 歌手、声楽専攻の学生、声優、俳優、邦 楽家、教師、保育師、コーラス・カラオケ愛好家、営業などの方が多い傾向にあります。それぞれ声を酷使したために声を悪くし来院されますが、職業や声の使 い方によって病気のタイプが異なることがあります。そこで当院では、病気の発症のメカニズムを知るためにも、各職種のジャンル別に統計をとっております。 今回は当院で受診の方が特に多い、声楽家、コーラス関係のクラシック発声の方について、これまでの学会報告をもとに、記述したいと思います。

1、声楽歌手の音声障害3000例の診断について

声楽発声は、声の大きさや高さについて過酷な条件を強いられる分野で,声楽の職業歌手及び声楽を専攻している学生の音声障害症例約3000例(1990-2001年)について統計的な検討を行いました。
方法:歌声を含めた声の異常についての問診、歌の経歴、ストロボスコピーによる内視鏡検査、必要に応じて、音響分析、EGGを併用しました。



対象は声楽専攻の学生を反映してか20代の女性が多かった。


声種は女性ではソプラノが低い声種の3倍以上であった。男性ではそれほどの差はなかった。


男女とも 声帯結節が多かった。次に急性声帯炎が多かった。急性声帯炎は他の病気に合併することもあるが、ここでは、単独での急性声帯炎のみで、結節など他の病気があればそちらを優先病名とした。女性では声帯出血が多い傾向にあった。



Vocal Nodules:声帯結節、Acute Corditis:急性声帯炎、Vocal Cysts:声帯嚢胞、Vocal Bleeding:声帯出血、Vocal Polyps:声帯ポリープ、Chronic Corditis:慢性声帯炎、others:そのほか


テノール、ソプラノの高い声種で声帯結節に成りやすく、ソプラノでは声帯嚢胞が多い傾向があった。慢性声帯炎はバリトン、メゾ・アルト など低い声種に多かった。


総 数の半分を年齢区分で考えると26歳になった。この年齢は声楽専攻の学生が卒業して4年、平均的には歌を本格的に始めて10年位にあたり、初心者を卒業し た頃に当たると思われた。そこで26歳を便宜上発声の習熟度の境と設定し、習熟度と病気の種類について検討した。女性の方が、26歳未満が多いのは、学生 の数を反映しているためと思われる。


テノールでは、26歳未満に声帯結節が多く、26歳以上に慢性声帯炎が多かった。


バリトン・バスでは、26歳未満に声帯結節が多く、26歳以上に慢性声帯炎が多かった。



ソプラノでは、26歳未満に声帯結節が多く、慢性声帯炎は差が少なかった。


26歳未満ではメゾソプラノ・アルトでは、声帯ポリープが多かったものの声帯結節の差は少なく、26歳以上で慢性声帯炎が多かった。


結果

 当院を受診した3000人の声楽発声を行う方を対象に、年齢、声種、病気の種類等を調べた。
声楽発声での声のトラブルの原因としては、声帯結節が多い。女性及びソプラノ、テノールなど高い声種に多い傾向があり、26歳未満の熟練度が低いグループ も多かった。声帯嚢胞は、炎症を伴う場合は結節と鑑別しづらい場合もあったが、ストロボスコープによる内視鏡でいろいろな音程で声帯振動を確認しながら診 察すると、判別可能であった。この結果、女性に多い傾向にあったが、結節の中にはまだ微小嚢胞が含まれている可能性もあると考えられ、ストロボスコープを 使っての声帯振動の詳しい検査により経過を追っての鑑別が必要である。
急性声帯炎は、一般の方でも頻繁に起こり易い病気であるが、声楽をする方の場合は、通常では問題にならないような軽症の風邪などでも、歌唱でトラブルの原因になることがあり、声帯振動に異常がないか否か、調べる必要があった。
声帯ポリープの発生頻度はそれほど多くなく、特にソプラノでは少なかった。ポリープの形態も一般患者さんのに比べると、小型で血豆のような出血性ポリープ のタイプが多かった。ストロボスコープを用いた拡大内視鏡で初めて確認される小さなものが多く、診断率を高めるためには、声帯振動の確認が不可欠である。
女性では、声帯出血が多いのが特徴で、生理前後、風邪薬・痛み止めの内服と咳、声の酷使が重なり起こった場合が多かった。
慢性声帯炎は低いパートと熟練者に多かった。これは、声の使い方と関係があると考える。
間接喉頭鏡では、浮腫、発赤しか観察できない急性声帯炎も、ストロボビデオスコピーによる拡大画像では、粘膜波動や声門形体の左右差などの異常を示し、小 結節などを指摘できる症例もあった。診察の精度で診断が変わることもあるので、微妙な訴えの多い歌手のニーズに答えるためには、歌唱発声を想定しながらス トロボスコープにより声帯振動を観察することが、不可欠である。
声楽発声を行う方の声のトラブルを起こす病気は、性別、声のパート、熟練度により特異性があったことから、発声法と病態の形成が関連していることが示唆された。




参考文献と関連学会報告

1.音声障害の診断 斉田晴仁:社会の変化と耳鼻咽喉科専門診療 、日耳鼻、東京地方部会公演、耳鼻と臨床 261-264,1994 
2.A Clinical Study of Vocal Disorders in Patients Singing Classical Songs Saida,H.:ANN.BULL.RILP,TokyoUniv,1992
3.音声障害: 斉田晴仁 岡本途也:,6産業耳鼻咽喉科,臨床産業医学全書,医師薬出版 194〜199,1989
4.声楽歌手の音声障害3000例の診断について 斉田 晴仁 第103回日本耳鼻咽喉科学会総会 東京 2003
5.プロフェッショナルボイスに多く認められた慢性肥厚性声帯炎について 斉田晴仁  米山文明  第35回音声言語医学会 徳島県郷土文化会館 10.26 1990
6.慢性肥厚性声帯炎の臨床について 斉田晴仁  米山文明   第3回喉頭科学会 仙台 3.22 1990
7.クラシック歌手の音声障害522症例について 斉田晴仁 第91回日耳鼻総会   5.17 1990
8.職業歌手における音声障害の臨床研究 斉田晴仁 調所廣之 岡本途也 第34回音声言語医学  11.10 1990
9.声帯結節の形状による分類について 斉田晴仁 第7回喉頭科学会 京都 3.10 1995
10.A clinical study of vocal disorders in 1200 cases singing classical songs Saida H,Hirose H. The 22nd annual international congress of the collegium medicorum theatri Paris Opera Theater France 7.10-13 1997

11.ポリ−プ様声帯の術後経過と音声治療 斉田晴仁 第40回音声言語医学会総会 11.1-2 1995

           

                           


2.音声科学による実験的研究



1. EGG(electroglottography)による声帯振動について

 声帯振動を調べる方法はいくつかありますが、直接声帯に触れることなく、痛みを伴わず簡単に行える方法としてEGGは、研究室レベルで欧米で用いられて きました。解釈の仕方など学術的にやや難しい面も残されていますが、音声と供に当院ではデータを解析し研究と臨床に役立てています。



声帯は1秒間に90−500 回も振動しています。声帯の振動の仕方は複雑で、上の声帯の断面図と上面図でわかるように、立体的に考えなければ理解できま せん。すなわち最初に声帯の下の縁、徐々に声帯中縁、最後に上の縁が付いてから離れ、再び声帯の下の縁で声帯が付くことの繰り返しということになります。 (上は久留米大元教授 平野実 先生の声帯振動の図から)



声帯はのど仏がある軟骨(これを甲状軟骨といいます。)の縦方向で中央にあります。写真のように電極を甲状軟骨の中央の左右に当てて、その電極間の電気抵抗の変化を調べると、発声時では声帯振動の様子を反映することになります。これをEGG (electroglottography)と呼び、客観的に声帯振動の様子を調べることができるため、研究分野で欧米では使用されてきました。



図の上は音声、下はEGG の波形です。Aは声帯が閉じている時、Bは声帯が離れている時にあたります。Bの時に 音声波形で波が高くなって音が出ている ことになります。EGG波形で、縦軸上向きは 電気抵抗が少なく声帯の接触面積の増大を意味し、下向きは電気抵抗の増大、すなわち接触面積の減少を意味し ます。これによりEGG波形では、声帯振動を声帯の接触面積の変化という形で表すことができます。



声帯振動の起こり方とEGG波形の対応点を示しました。
EGGH、SPH はグラフ上でのピーク・ピーク値を示します。


私の研究では、EGG波形におけるA,B より声帯が開いている時間の割合、声門開放時間率を設定しその変化を調べています。
声門開放時間率=EGGOQ=B/(A+B) 
声帯振動1周期内でのEGG波形のピーク・ピーク値(各周期ごとの最大ー最小値)をEGGH、
音声波形のピーク・ピーク値(各周期ごとの最大ー最小値)を SPH
下の図は、元東大音声研の今泉敏先生が作成したプログラムによるもので、最上段に音声とEGG波形、中段に音響分析、下段にF(基本周波数)、EGGOQ、EGGH、SPHを示しています。



これは 被検者(M)による母音 [a] 声楽発声でのC4からC5までの1オクターブスケールです。Fは声の基本周波数で声の高さを表しています。Fが 少しづつ上昇していますが、EGGOQが急激に上昇する部位があります。約350Hzでこの点は、声区の変換点(change)で胸声区から中声区に移行 する点に当たります。これまで筋電図などの検査で、声の高さにより、いくつかある声帯内筋のバランスが変わり声帯の振動様式が変化することが証明されてき ました。今回のEGGでの方法は、針を刺すなど痛いことをしなくても、測定が可能なので臨床や、歌唱などの研究で有意義です。



被検者(M)による母音 [i] 声楽発声によるものです。基本周波数の規則的なゆらぎ(ビブラート)が認められます。Change の前では  [i]母音よりもビブラードの抑制が、[a]母音のほうが大きいことがわかります。



被検者(B)による母音 [a] 声楽発声。被検者(A)と同様にChange の前後でEGGOQは増加し、EGGHは減少、ビブラートは抑制されていました。ビブラートの大きさが、被検者(A)より大きくこれはEGGOQ、SPH にも反映されていました。声帯振動が一定であれば理論的には EGGOQは一定になりますが、声帯振動以外に左右の声帯間の距離に影響を及ぼす声帯の上下 運動などの要素があるとこのような結果になると思われます。また EGGH はある程度一定で、声区の変換後では、低下すなわち声帯の接触面積の減少、声 帯縁で粘膜波動を起こす容積の低下を推測させます。



声は発声の仕方で、音色が変わります。上図のように声帯を薄く使ったり、厚く使ったりしますが、声の使い道により通常は使い分けています。優しい声を出す 時や声楽的な発声では、前者、怒った時や凄みのある声が必要な時は後者になります。前者の方が声帯の接触が少なく声帯振動は滑らかになります。後者では声 帯の接触する時間が長いため、声帯振動で声帯が閉じている時間が長くなります。これらの発声の違いは内視鏡による声帯画像でも写真のようにある程度判定は できますが、EGGを使い非浸襲的に観察することも可能です。




前者のような声楽的な声帯の直上を大きく開けた発声(ピンク) と後者のようなのどをつめたような地声発声(紺)をEGGで比較すると上図のようになります。前者のほうがEGG波形が鋭くとがるようなカーブを描きます が、これは声帯が閉じている時間が短く声帯が開いて呼気が出ている時間が長いということを意味します。これを上左のような音響分析で見ると、前者(ピン ク)では周波数のピーク値が下がることになります。この下がった付近のピーク、(ここでは3500Hz位) を singing formant と呼び声楽歌唱での特徴的な響きの要因になっているとされています。すなわちEGGを測定することで、発声時における声帯の接触のさせ方や間接的に声帯上の共鳴腔の様子を知ることができるので、発声の指導などで有意義で、当院では日常臨床においても用いています。


参考文献と関連学会報告

1.歌声ヴィブラートと咽頭側壁運動との関係について  斉田晴仁 今泉敏、 新美成二 廣瀬肇、 第6回喉頭科学会  佐賀  3.11 1994 
2.共鳴管腔の動きと声の搖れについて  斉田晴仁 今泉敏、 新美成二 廣瀬肇  第95回日耳鼻総会  5.19 1994  

3.音声振戦症の喉頭の動きと音声の変化について  斉田晴仁  今泉敏  新美成二 廣瀬肇  第46回気管食道科学会   10.20〜21  1994
4.歌声のヴィブラートと咽頭側壁の運動との関係について  斉田晴仁 今泉敏  新美成二 志村洋子 斉田正子     第38回音声言語医学 千葉 11.12 1994                
5.ベルカントオペラの歌声におけるビブラートの音響学的特徴    斉田晴仁 今泉敏  廣瀬肇    第93回日耳鼻総会   名古屋   5.15〜17 1994

6.声の可制御性について 今泉敏、 H.Abdoerrachman、志村洋子、斉田晴仁 廣瀬肇、 新美成二  第38回音声言語医学会   11.12 1994、  音声言語医学 p.55 35,1,1994
7.Relations between vibrato and register  Saida,H.,I.Imaizumi,and H.Hirose: 19th  Collegium Medicorum Theatri   Utrech 8.27  1993
8.歌声でのヴィブラートの音響的特性について
 斉田晴仁 今泉敏  廣瀬肇 第99回日耳鼻東京地方部会  10.23 1993
9.歌唱発声の声区変換点での呼気流率と音声の変化について 斉田晴仁 今泉敏  廣瀬肇 第4回喉頭科学会 名古屋 3.13 1993
10.歌声でのヴィブラートの音響的特性について 斉田晴仁 今泉敏 廣瀬肇 第99回日耳鼻東京地方部会  10.23 1993 
11.歌声ヴィブラートの音響的特性について
  今泉敏 志村洋子 斉田晴仁 廣瀬肇  音楽音響学会 3.29  1993           

12.歌声声区変換機構の空気力学的音響学的検討  斉田晴仁 今泉敏  廣瀬肇 第5回喉頭科学会   3.18,19  1992,喉頭6 24−32,1994
13.歌声における声区変換の解析 斉田晴仁 今泉敏  廣瀬肇 日本音響学会 高知  10.6  1992        
14.歌声の調波構造解析  泉敏  志村洋子 斉田晴仁 廣瀬肇  日本音響学会     高知 10.6  1992      
15.イタリアベルカントオペラの歌声の音響学的特徴について 斉田晴仁  斉田正子  今泉敏   第36回音声言語医学会 大阪 10.26   1992
16.歌唱発声での呼気流率について
  斉田晴仁 鈴木吾登武  明石恵美子 第43回気管食道科学会  京都  11.15 1991





3.病理学的研究


1.声帯粘膜の微細毛細血管の走行について、

 声帯の診察は今日まで一般には、小さな鏡(間接喉頭鏡)で行われてきました。1.8cm 前後の小さな鏡に光を当てて、のどの反射があり動いている声帯 を診察するのは、耳鼻咽喉科の診察の中では最も技術的に難しいものでした。この小さな鏡による診察は今でも喉頭診察で重要なのですが、詳しく観察するには 限界がありました。そこで、現在は、声帯を詳しく観察するためにファイバースコープやプリズムを用いた側視型硬生鏡や電子内視鏡を用いるようになっていま す。それぞれ長所、短所があり場合により使い分けています。、声帯の病気は、種々ありますが良性疾患としては、急性声帯炎、慢性声帯炎、声帯ポリープ、声 帯結節が多くを占めています。これらの病気の発症には声帯の毛細血管の血流障害が関係していますので、診察では、見た目の色調のみでなくその背後にある声 帯の毛細血管の走行異常を想定しながら、私の場合は診察しています。この声帯の毛細血管の走行を調べるために、接触型内視鏡を用いて各種の病気について詳 しく調べました。



これは、歌唱発声後の正常な声帯で○印部位について、拡大型側視鏡でも声帯縁に沿って平行な多数の微細毛細血管の走行が確認されます。健康な声帯粘膜には 毛細血管は確認されず、通常白色ですが、このように声を酷使した後では、軽い発赤として確認されます。



片側のみに病変があり、接触型内視鏡検査が可能であった健側の声帯画像です。微細毛細血管は赤血球が一ケ 一列に流れることが可能な細いもので、血管拡張 剤でこのように確認されますが、血管収縮剤を用いると血流が途絶えて消失っしてしまうような微細なものです。声帯縁に沿って平行に流れていて、しばしば血 流は隣り合う血管どうし逆向きのこともありました。拡大型側視鏡では観察可能ですが、画像の距離によるひずみが多きいファイバースコープでは平行な血管走 行の観察が困難なこともあります。



これは大きな血管が拡張している場合です。このような異常血管走行は、しばしばポリープの成因になりますので詳細な観察が必要です。声帯振動は声帯縁に垂 直な向きに力がかかりますから、声帯縁に垂直な血管走行は、直接声帯振動の力学的な力の影響を受けることになり、血流の鬱滞を起こし血管の拡張といった悪 循環になります。
ステロイドを長期内服しますと血管透過性亢進が起こり、声の酷使によりこのような病態になりやすくなります。プロフェッショナルヴォイスの方は要注意と私は考えています。


接触型内視鏡では、このようにソーセージ状になり、内腔を何列にも連なった赤血球が高速に通過するのが観察されます。正常な血流は、声帯縁と平行ですが、 このような異常走行は声帯縁とは垂直な場合が多くあります。これは声帯振動時に発生する物理学的な力が関係すると私は推測しています。すなわち、声帯縁に 平行に走っていた正常な毛細血管のある危弱部位に、声帯縁に垂直な声帯振動による力が加わり、異常な走行を作り出したためと考えています。充血している時 の声の酷使が、このような声帯縁に垂直な血流を作りポリープなどの元に成ると考えています。


これは、ポリープ様声帯で、拡大型側視鏡でもしばしば異常毛細血管走行を確認できます。ストロボスコープで声帯粘膜の動きを観察すると、毛細血管が声帯振動の方向(声帯縁に垂直)とは無関係に走っているのが確認されます。


接触型内視鏡ではこのように比較的太い毛細血管と網目状にループを形成する(赤血球が一ケ通るような)微細毛細血管網を確認することが可能です。ループ形 成は声帯振動の方向とは無関係であるため、これがまた むくみの増加を加速化するもの考えます。一度ループが形成され、声の酷使であるはげしい声帯振動が 続けば、病態は改善しにくいものと推測します。臨床的には喫煙、飲酒、声の酷使がこれに関与すると考えられます。





写真の右は毛細血管の異常走行がややありますが、緑○の範囲は正常に近い部位です。左黄色○の部位は、白く粘膜が硬くなっていて悪性病変も否定できない部位です。それぞれ接触型内視鏡で、染色後組織を調べました。

緑○の範囲で、声帯の毛細血管が下に透けて見えていますが、縦向き、すなわち声帯縁に平行に細胞が並んでいるのが観察されます。細胞の核は一定で変形、分裂もなく正常な細胞だということがわかります。 黄色○の部位で、拡大率が違いますが、細胞の核が不均一で大きな核や不整形の核が認められます。悪性所見も否定できず、引き続き経過観察が必要です。


こ れまでの声帯の悪性所見、癌の検査では、一部声帯を切除して標本を作って診断していました。そのため癌か否かの診断まで時間がかかり結果的に治療にとりか かるまで時間がかかってしまいました。声帯癌の初期のものは、根治を目的として放射線治療やレーザーによる腫瘍焼却術が行われていますが、今回のシステム では、診断後引き続きレーザーによる根治治療が可能で、患者さんにとっても1回の手術のみで終わるため、治療期間の短縮ができメリットが大きいといえま す。病理の診断は、病理の専門医が行います。手術室に病理医がいればその場で、いない場合もインターネットを介して遠方の複数の病理医による診断が可能な ので、これからの遠隔地での医療にも期待がもてると思います。切らなくてもわかる病理診断やネットでの病理診断は、各医療分野で今後発展していくことと願っています。



参考文献と関連学会報告

1. 声帯粘膜の微細血管走行 斉田晴仁 大気誠道 藤谷哲 久木田尚仁 第50回気管食道科学会 11.5-6 1999
2. 喉頭疾患におけるContact endoscope の有用性 斉田晴仁 大気誠道 藤谷哲 久木田尚仁 第50回気管食道科学会 1.5-6 1999
3.声帯疾患、咽喉頭炎の局所療法 斉田晴仁外来処置ハンドブックJOHNS 15 No4,661-664,1999





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