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Dr.さいだ の ヴォイスクリニック
V、代表的な声の異常を起こす病気について 声の異常を起こす病気はいろいろありますが、受診される方が多いと思われる病気を紹介いたします。
W、声の異常を起こす病気の治療について 音声障害を起こす疾患は、以上のようにいろいろあります。”歌が命”という患者さんご本人から考えると、声帯結節でも難治性のものは悪性なのですが、医 学的には悪性腫瘍の疑いがあり生命の危険がある場合を耳鼻咽喉科的には悪性の病気としています、以降 良性 と 非良性(悪性の疑いあり)に分けて記述し ました。 ![]() A. 良性の声の病気 良性の声の病気の治療方法は、大きく分けて3つに分けられます。 治療側としては、この3つの方法を適時組み合わせて行うことになります。 1.保存的治療 炎症性疾患が声の病気の多くをしめるので、声帯の炎症を抑える治療が大切になります。薬物の内服療法と吸入療法、声帯の安静のための発声制限が、保存的 治療と言えます。細菌感染が考えられる場合は、抗生物質の投与が必要になります。炎症を起こすと、声帯は充血とむくみが起きますから、声帯に直接薬液を噴 霧する吸入療法は特に効果的です。薬物作用による治療のみでなく声帯を加湿することによっても、声帯振動に必要な気道液の補充と言う意味で声帯振動が改善 されるので有効になります。また加温による毛細血管の拡張は、声帯の局所循環を改善する効果もあるので、温熱による吸入自体にも効果があります。しかし感 染がある場合炎症を進ませてしまうこともあるので、病気の状態による治療法の判断が大切です。 ステロイド内服処方の功罪 歌手などの方で声が急に出しにくくなる場合、耳鼻科医でステロイドを処方される場合があります。これにより一時的に歌唱などで仕事を行うことが可能な場 合もあります。しかし内服によるステロイド長期併用により、声帯の毛細血管の透過性が亢進し、声の酷使により声帯微細毛細血管の出血を繰り返し慢性声帯炎 になっていくことがあります。この状態での声の酷使により、さらに増悪し慢性声帯炎は進展していきます。 参照:研究(微細毛細血管の走行)へリンク。 また血圧や糖尿病の悪化などステロイドによる副作用がでてしまったりするトラブルを見ることもあります。 パフォーマーの方は、毎日が声の酷使の連続です。一時的な声の治療でなく、本人の声の使用状況、社会状況を充分に考えた長い目でみた治療が必要と考えています。 2.音声外科 声の改善を外科的に行う積極的治療でケースによりいろいろな手術法が行われています。 @.ポリープや結節、嚢胞など隆起性の声帯の病気の場合 隆起性病変では発声時に声帯の合わさりが悪くなり、声帯振動が不良となり声のかすれなどを起こすため、原因となる隆起を切除手術し声帯振動を改善し声を 良くする方法です。手術の可否の判断は、病変の大きさ、部位、性状などをストロボスコープ使用の内視鏡で調べる他、声の使用状況や術後の安静など本人の社 会的背景も考えながら決める必要があります。 手術方法は、ファイバースコープによる方法、直達鏡による方法(仰向けで頭を下げ口より金属性の筒状の器具を挿入)、間接喉頭鏡(小さな口の中に入れる 鏡)を使用する方法 があります。のどは敏感な部位なので手術では麻酔が必要です。麻酔法は局所麻酔、全身麻酔に大きく分けられます。 従来は、外来での間接喉頭鏡や直達鏡による手術方法、入院での全身麻酔下による顕微鏡下直達鏡手術が行われていました。しかし昨今、健康保険法の改正があり、外来での局所麻酔下によるファイバースコープによる声帯ポリープ手術も保険適応となりました。 声帯ポリープ(結節)切除術の手術法による長所
A. 声帯溝症、弓状声帯 など声帯萎縮性病変、反回神経マヒの場合 発声時に声帯間にスキマができるためかすれ声になってしまうので、このスキマを少なくするいくつかの手術法が行われています。 @.声帯内コラーゲン注入術 前述のすべての方法で可能ですが、注入用コラーゲンは美容外科でのしわとりで使われているカートリッジに入っているものなので、容易に清潔に使用が可能で す。特殊な注入器具を使えばファイバースコープ下での注入術が可能で、一定期間、皮内反応で様子を見てから行います。直接、皮膚より喉頭に注入する方法も あり、病態やのどの反射の状態で決める、術者の経験と技術が重要な手術法です。 A.脂肪、筋膜 等の注入、挿入述 自分の体の組織の一部を使うので、拒絶反応の心配はありませんが、採取や消毒など手間がかかるため、全身麻酔で通常行われます。 採取部位に傷がつく場合があります。 B.甲状軟骨形成術 声帯は甲状軟骨(喉仏の軟骨)の中央の高さに位置します。この軟骨の一部に切れ目を入れ外側からシリコンブロックなどを使い圧迫すると、萎縮やマヒした声 帯は内側に押さえられ、声帯間のスキマを少なくして声を改善することが可能です。理想的には本人の意識がある局所麻酔下で声を確認しながら行うのが良いで すが、技術的に難しいため施設により麻酔法は異なります。 C. 被裂軟骨内転術 前述の術式に含める場合もあります。反回神経マヒに対して、マヒした声帯の軟骨部分(被裂軟骨)を糸で引っ張り声帯が閉じている位置に整復する方法です。 声帯の閉じた時の位置(縦方向の高さ)も矯正でき、異物を使用せずに行える優れた方法ですが、前述と同様に皮膚に傷が残る可能性があります。 3.音声治療 声は呼気で声帯を振動させて音にすることから成りますが、声帯や呼吸器など個々の発声器官に異常がなくても、この協調運動が悪いと声は悪くなります。声 帯模写では、通常は健康で正常な声の人が、発声の仕方次第でいろいろな声に変えられます。良い発声の仕方を会得していれば、風邪などで声帯のコンディショ ンが悪くても、ベテランのパフォーマーならある程度は仕事での発声が可能なことがあります。発声法(声の出し方)は、良い声を出すためにはとても大切で、 きれいな声帯を作ろうと耳鼻咽喉科医が手術という手法で努力しても、良い発声法の会得なくしては、良い声は生まれてきません。良い楽器があっても正しい使い方をしらなければ、良い音がでないのと同じです。使い方が良ければ、その楽器の性能を最大限に引き出すことも可能です。 今日まで、声の使い方について声の治療担当者である耳鼻咽喉科医は、関心をしめさない傾向が多い風潮がありました。医師自身が発声法を実践的に会得する必 要があるため、避けてきた経緯があります。しかし欧米では、古くから発声法改善による声の治療を、音声治療(ボイステラピー)として行っており、最近やっ とこの重要性が耳鼻咽喉科のごく一部に浸透してきました。 声の病気の中で、発声という行為そのものに原因がある場合は、すべて音声治療の適応となります。従来より歌手に多いとされる声帯結節は、発声法の改善な くしては手術しても再発があり完治は望めません。発声法の改善のみでも、結節は良くなり声が良くなるケースが多くあります。声帯ポリープ、ポリープ様声帯 も、声の使い方により、発症の要因といわれる声帯粘膜内の微小出血を起こさせる程度が変わってくるので、結節ほどではありませんが、補助的な治療として音 声治療は有効でしょう。結節、ポリープ、ポリープ様声帯など炎症性声帯隆起性病変は、音声治療の適応といえます。 心因性発声障害は、なんらかの心因により声が出せなくなる病気です。のどの間違った部位に力が入りすぎたり、息を出すタイミングとのどの声帯を閉じるタ イミングが悪いなどで、正しい声帯振動を得られずおこるので、発声を矯正する音声治療は最も効果的な治療法です。 変声障害は、成人になっても声の高さを保とうと間違った声帯の使い方をすることから起こる病気ですから、声の使い方、正しい発声を指導する音声治療は、最も良い治療です。適切な音声治療であれば、たいていの方は完治します。 けいれん性発声障害は治療が難しい病気の一つですが、いろいろな治療と組み合わせながら音声治療を行うと効果がある場合があります。 声帯結節、声帯ポリープなど、声帯手術のみでも治療効果は得られます。しかし手術は基本的に声帯をきれいにするだけですから、発声法がもとのままでは、 声は良くなりません。不適切な発声による声の酷使という病気の発症原因を考えれば、音声治療は全ての声帯手術の後で行わなければいけない治療法だと思いま す。 以上のように音声治療は、発声のメカニズムを考えれば、全ての声の病気の治療に有効と言っていいと思います。医師自体が机の上だけでない実践的な発声法 の勉強をする必要があるので、まだまだ日本では認識が浅い分野ですが、今後耳鼻咽喉科医の中にも必要性が浸透していくことと思います。 以上良性の声の治療には、1.保存的治療、2.音声外科、3.音声治療 とありますが、.受診される方の病気の状態,声の使用状況や使い方など、社会的な要因なども考慮しながら、これらの方法を適時組み合わせて行われています。 B.非良性の声帯の病気 喉頭には、さまざまなタイプの悪性腫瘍が発生します。組織のタイプにより病気の進展や治療法などが大きく異なるため組織を調べることは、たいへん重要で す。多くは扁平上皮癌で、ごくまれに腺癌ですが、悪性リンパ腫 などさまざまな組織のタイプの腫瘍の報告もあります。また白班症、角化症 など前癌状態と いわれる疾患もあり、良性の腫瘍で多い乳頭腫は、しばしば悪性化するケースがあるため、悪性腫瘍に準じて扱われることもあります。 これらの病気が声帯に発生すると、何らかの声の異常が出現します。これらの病気では、通常の声帯粘膜より硬いため、声帯振動に影響を与えやすく、ストロ ボスコープによる内視鏡検査では声帯振動の異常も知ることができるため病気の声帯における進展度も知ることが可能です。 内視鏡検査でこれらの非良性の疾患が疑われる場合は、組織検査をすることになります。のどの反射(のどの奥を調べる時、ゲー となること)が少ない人は ファイバースコープで声帯ポリープ手術のような組織検査を行うことも可能ですが、のどの反射が強いひとは 全身麻酔下で顕微鏡を使い観察しながら組織を採 取する必要があります。施設によっては、手術中に迅速病理検査を行い、悪性所見がでれば採取部位を直ちにレーザーで焼く治療も行っています。 ![]() 近年、新しい検査法として、手術中に特殊な内視鏡(コンタクト内視鏡という)を組織に先端を接触させ、ビデオカメラに接続した画像を 400倍まで拡大 し手術中に病変の切除なしに組織検査をする機器が開発されました。従来、採取組織から顕微鏡検査用の標本を作るという時間のかかる面倒なことをしなくては ならなかったものが、手術室に病理の専門医がいれば、その場で悪性か、否かの判定が可能という画期的なもので、その場に病理医がいなくても画像を イン ターネットで遠方の複数の病理医に送り 病理診断が可能という遠隔地医療などでも期待されるシステムです。迅速な組織診断により即座に、レーザー照射や切 除手術などに取り掛かれるため、組織採取後の腫瘍の進展と再度の全身麻酔による手術リスクを避けることが可能で、今後の日常的な治療の一環として行われる ことを私は期待しています。(リンク) 右写真は、コンタクト内視鏡で見た声帯粘膜内の比較的太い毛細血管と染色された声帯粘膜の正常細胞 組織検査で悪性の診断がでれば、初期のものであれば、レーザー照射、放射線治療、腫瘍切除術 が行われていますが、治療方法は腫瘍の進展度、部位、入院加療希望か など患者さんと家族の希望 など総合的に判断して決められています。 中等度であれば、喉頭部分切除など腫瘍を摘出する手術を主に、放射線治療、免疫療法が行われ、進行している場合は、喉頭全摘手術、放射線療法、免疫療法が 行われています。喉頭を全摘出すると、声が出なくなりますが、それに代わるような代用音声として、電気喉頭や食道発声があります。また気管からの呼気を手 術で作った管(気管咽頭ろう)やチューブを通してのどの奥に導き発声する方法などいろいろあり、術後、社会復帰し再び第一線で代用音声を使い活躍されてい る方もたくさんいらっしゃいます。喉頭全摘出イコール社会生活不能ではありません。 腫瘍の治療法は、組織のタイプ、進行度、部位、治療施設の設備、医療スタッフ、患者さんの年齢、合併症の有無、全身状態や御家族の看護支援の状況、治療 後の社会生活の形態 などさまざまな要因があり一様ではありません。医療スタッフと充分に検討の上決められることになります。手術が終了しても最低5年間 は、再発のチェック など必要になりますから、無理のない治療計画を立てる必要があります。また近年では緩和ケアの普及が充実しつつあります。痛みの少な い、患者さんに優しい医療が行われつつあると思います。 悪性腫瘍が自分の体に発見されることは、たいへんなストレスでご本人、家族すべてが、気落ちする大事件であると思います。しかし現在の喉頭癌の治癒率は 大幅に改善されていて、患者さんと家族により負担が少ないよう、医療サイドも努力していますので、腫瘍の発見で気落ちすることなく積極的に、なんでも相談 しながらより少しでも良い治療が受けられるよう、医療スタッフや家族の方と励ましあいながら病気と闘っていってほしいと思います。 私は幼少の頃、祖父を喉頭癌で亡くしております。早期発見であれば必ず助かる喉頭癌で、不幸な方が出ないよう、声の健康の啓蒙運動”あなたの声を良くするレクチャーコンサート”でも、声に異常があれば少しでも早く お近くの医療機関を受診するよう勧めています。 以上 現在国内の耳鼻咽喉科施設で行われている 主な声に関する病気と治療法について若干の私見も加えて記述しました。施設によっても、担当する医師に よっても、病気に対する考え方や患者さんの声の悩みに対する考え方によっても、実際に行われる医療には違いがあります。また現在の医療が健康保険法の枠組 みの中で行われている場合がほとんど という現実もあるため、必ずしも最善の治療が行われない場合もあります。しかし ファイバースコープでの声帯ポリー プ手術など、以前はほとんど入院で全身麻酔で行われた手術も、外来で健康保険でできるようになり、患者さんサイドに立った医療に変貌しつつあります。声の 医療に関するこれらの情報提示が皆様の声の治療や声の悩みの解決、また皆様のお近くの耳鼻咽喉科受診のきっかけになれば 幸いと思います。 ![]()
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