http://www.good-voice.co.jp 
Saida Ear,Nose & Throat Clinic
さいだ耳鼻咽喉科気管食道科クリニック
http の文章、写真の無断コピー、引用はご遠慮ください。
さいだクリニック での日帰り外来声帯手術
【始めに】
最近はいろいろな分野で、患者さんの負担がより少ない治療方法が考案され行われています。声帯はのど仏の中にある小さな粘膜で覆われたヒダで、気道の入
り口になるため大変敏感にできています。飲み込んだ食べ物が気管に入ると、気道を塞いで窒息させたり、後で肺炎になるなど危険な状態になる可能性もあるた
め、異物が入ると危険を感知し、咳として異物を排除する必要があります。そのためのどの奥をさわると誰でも気持ちが悪くなり ”ゲー”というのどの反射が
起きます。ですから通常の声帯の手術は全身麻酔で、無意識にして のどの反射をなくしてから行います。全身麻酔をする場合は全身状態の管理が必要になりま
すので、手術前後に入院が必要になります。
一方これまで、声帯の組織検査をする時などは、のどの局所麻酔のみでファイバースコープを使って行っていました。声帯ポリープ切除術は、これに準じた手
術方法なのですが、一般的には局所麻酔で行われない傾向にありました。それは、全身麻酔での手術の方が、声帯が動かないため、手術をする医者側から見ると
手術が容易であるからだと思います。他に、健康保険ではファイバースコープで行う声帯ポリープ切除術は、長い間、認められなかったという点があるかもしれ
ません。しかし最近、ファイバースコープで行う声帯ポリープ切除術も健康保険適応になり、患者さんの経済的及び時間的負担がより少ない治療法の選択ができ
るようになりました。当院では、種々の工夫を行うことにより、現在ファイバースコープによる外来声帯手術を頻繁に行っています。
【ファイバースコープで行う声帯手術について】
外来でのファイバースコープで行う一般的な声帯手術の長所として
1.入院なしで外来で短時間で行える。忙しい方でも可能。
2.局所麻酔なので全身麻酔のリスクを避けられる。
3.治療費が入院治療より安価。
4.ビデオシステムで画像を拡大しながら手術可能。
5.術後の音声の確認が可能。
などが、一般的な施設で考えられる点です。
当院では、さらに手術中発声可能な長所を生かして次のような事を行っています。
6.ストロボスコープで声帯振動の確認を行う。手術後の発声状態を手術中に知ることができる。
7.EGGで声帯振動の状態の確認が可能。手術前後の発声中の声帯の接触面積の推移を手術中に知ることができる。
など、術後の状態の把握が可能なので、病変の切除が不十分な場合などすぐに追加切除など容易で、より良い状態で手術を終わらせること が可能です。
この手術方法の長所は、患者さんの意識があることによりますが、同時にのどの反射も残ることになります。
局所麻酔により、喉頭を中心に麻酔しますが、当院では特に選択的に喉頭の神経をブロックするという方法も用いています。
しかし、これらの手法を行っても、どうしてものどの反射が強い方については、局所麻酔での手術が行えない場合があります。、このような場合は、全身麻酔でのマイクロラリンゴサージェリーを行うことになります。
たいていの場合は、術前の諸検査により、局所麻酔手術可能か否か判断可能です。
当院での 外来での声帯手術の主な対象疾患は、声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯、声帯嚢胞、声帯血管腫 など良性炎症性疾患と 声帯溝症、弓状声
帯、反回神経マヒ など萎縮性疾患で、悪性疾患の疑いが高い場合は、関連の施設にご紹介することになります。
【ファイバースコープ用声帯メスの使用】
ファイバースコープでの切除術を行う場合、通常、内視鏡用の切除器具を使うことになります。この器具の先端は楕円形になっているため、切除すると、切れ端
が凸凹になってしまうという欠点があります。もともと消化器などでの組織検査用に開発された器具ですから、切れ端の形態のことは考えず、より狙った所を正
確に、出血は少なくという意図で作られたものと思われますのでこれまでは問題はありませんでした。しかしこの器具で声帯の切除を行うと、ちょうど 術後”おせんべいに歯型"が付くようになってしまい、声帯縁が凸凹になってしまうことがあります。
ファイバースコープ用メスの使用
かつてこのような手術を行い、術中のストロボスコープで声帯振動の不具合を経験し、この解決のために複数回に分けて切除という方法を取っていました。しか
し何回にも分けると時間がかかり煩雑なため、なんとか切除端をきれいにするような器具の開発を考えていました。現在では、特殊なファイバースコープ用メスを使っています。病変の周囲をきれいにファイバースコープ用メスで切開するので、もう”おせんべいの歯型”のような声帯縁の凸凹が生じることは少なくなりました。
ファイバースコープ用メスの使用による適応疾患の拡大
ファイバースコープ用切除器具のみでは、切除困難だった大きなポリープやポリープ様声帯なども、ファイバースコープ用メスで切開することにより可能になり、さらに、これまでファイバースコープでは困難だった声帯嚢胞も声帯ファイバースコープ用メスにより、表面の組織を切り取ることなしに病変のみ吸引切除が可能になりました。したがって 歌手、などデリケートな声を求める方の声帯の手術も、外来で局所麻酔手術で行うことができるようになりました。今日までこのようなデリケート手術は全身麻酔で顕微鏡を使って初めて行えるものでしたが、このファイバースコープ用メスをある特殊な使い方で使用することで、手術適応が大きく広がりました。
【具体的な手術方法について】
手術の適応は、病気の種類、経過、術前/術後の声の使用状況で、異なります。当院での声帯疾患は良性がほとんどですから、呼吸苦などの特別な症状がない
限り、通常は保存的治療を優先することになります。歌手などのパフォーマーの場合は、本人のみならずマネージャーなどと来院され、仕事に差し支えないよう
な治療計画と声を悪化させないような手術後の仕事の調整を行うことも大切です。また声帯結節など 声の酷使や使い方に病気の発生が関係している場合は、術
後の再発防止などについて、指導者の方の理解と発声指導の協力が重要になります。
手術当日の在院時間は、2ー3時間です。通常、当院の午前診療の終了後か、午後診療の始まり前に行います。遠方の方の場合は、翌日診察に便利なように、近
くの新横浜近辺にお泊りいただくこともあります。手術前、飲食は控えていただきますが、術後、帰宅時にはすぐに食事可能です。発声の制限や禁止は、術後の
状態によりまちまちです。術後すぐに日常会話可 という場合や 術後 2週間で歌のリサイタルをされた方、1週間会話制限を要する方など 病気の状態や手
術の経過、ご本人の仕事での声の酷使状況で異なります。術前に希望をお知らせいただき、治療計画を立てています。
声帯ポリープの場合
1.
左声帯ポリープ症例 |
2.
ファイバースコープ用メスで病変周囲を切開
|
3.
病変周囲を声帯縁に沿って切開 |
4.
切開後に摘除 |
5.
ストロボスコープで声帯振動を確認して終了 |
6.
術後2週間 |
声帯結節の場合
1.
両側に結節あり |
2.
発声時にスキマがある |
3.
ファイバーメスで右声帯病変周囲を切開 |
4.
左側も同様に切開 |
5.
切除部位を摘出 |
6 .
ストロボスコープで声帯振動を確認して終了 |
【いろいろな手術例について】
|
術前 |
術後 |
|
声帯ポリープ |
 |
 |
40代男性 声のかすれ で受診
営業のため声の酷使、飲酒、喫煙多し
休みが取りにくく外来日帰り手術希望
かすれ声は改善 |
声帯ポリープ |
 |
 |
50代男性 がらがら声で受診
いつも店頭での大声。カラオケ愛好家
写真は手術直後のもの
声は改善 |
声帯ポリープ |
 |
 |
30代女性 お母さんコーラスコンクール2週間前に急に声がでなくなる
小さなポリープを切除し、声は改善
コンクールに間に合う |
声帯嚢胞 |
 |
 |
40代男性 数年前よりがらがら声
ヘビースモーカー
ポリープ様声帯に嚢胞ができ声が急激に悪化
多忙な仕事で入院不可能、外来手術で声は改善
禁煙指導も行う |
声帯嚢胞 |
 |
 |
30代女性 コーラスで高い声が出なくなる
左声帯粘膜のやや深いところに嚢胞あり
高音発声の時、ストロボスコープで声帯振動の左右差が顕著
歌の発表会に間に合うよう外来で手術
EGGも改善し高い声がでるようになった |
声帯溝症 |
 |
 |
60
代男性 息漏れのする声のかすれで、話すと疲れるので日常会話困難ということで受診。左は発声時の写真で声帯が閉じずに大きなスキマが開いてしまってい
る。美容外科の皺取りで使うコラーゲンをファイバースコ−プにて、特別な注射針にて注入し、声帯が閉じるようになり音声は改善。
術後、発声のトレーニングを行っているので声の悪化は少ない。手術のみでは、不十分である。 |
適時追加します。 |
|
|
|

【発声の指導】
局所麻酔での声帯手術は、麻酔が効いてしまえば、数分で終わりますが、呼吸の仕方やタイミングなど、ご協力いただく必要があります。
呼吸の仕方が悪いと時間がかかってしまうばかりか、繊細な手術ができない可能性もありますので、手術前の呼吸と発声の指導は、良い手術をする上でも重要で
す。また手術しただけでは、悪い発声習慣まで治っていませんので、良い声が望めないこともあります。当院では、すべての声帯手術の前後に、呼吸と発声の指
導を行っています。声帯を手術により良い状態にしてから、良い声帯振動が得られるように、呼吸法の改善、呼気と声帯を閉じるタイミングの改善、のどの余分
な筋緊張を取り除くこと、すなわち発声法の改善が重要なことが多いと痛感しています。
良性の声の病気の治療には3つの方法があると、ボイスクリニックのページでご説明しました。リンク 手術を行う場合は、術後の再発予防やより良い音声の獲得の
ために、特に3番目の音声治療が重要だと思っています。これが適切にできるか否かで、音声外科で改善させた声帯がうまく振動し良い声が出るか、どうかが決
まります。場合によっては、声帯はきれいになったけれど、声はよくならない ということが起こりえます。ちょうど車のエンジンの故障は直したが、タイヤの
パンクの修理を忘れたので車は走れない。 ということに似ています。治療にあたっては、常に発声のメカニズムを考えながら、保存的治療、音声外科、音声治
療とバランス良く行うことが大切で、音声外科のみの治療では不十分だと思います。
音声治療の実施は現在、言語療法士(ST)に任せてしまう施設もあるようですが、ほとんどのSTは実践的な発声訓練の経験がありません。声帯の状態を把握している音声治療ができる医師が、それぞれの患者さんにあった発声指導ができるのがベストだと思います。
当院ではそれぞれの患者さんに合わせた発声指導を、EGG リンクなどを用い視覚に訴えながら、院長自らが行っています。
発声指導者の方へ
プロフェッショナルヴォイスで指導者がいらっしゃる方は、ご本人の承諾があれば、医療情報を指導者の方に提供しております。そして治療のために発声法の改善の必要性を理解していただき、実際に発声の指導をしていただく、すなわち一緒に治療に参加していただくようにしています。 声帯結節などは、発声の仕方が病気の発症と関係しますので、たいへん重要なことです。 ”どのような音域であれば、声帯振動に負担がかからないか” など具体的な情報提供をすることにより、術後の発声指導が患者さんの声帯の病気にとっても、またプロフェッショナルヴォイスの習得にとっても良い方向に向かうように試みています。
現在、指導者の方々の理解も徐々に深まっており、一部の患者さんで望ましい結果が出ております。
声の治療は、患者さんのニーズ、”どのような声にして欲しいか”ということに答えるという側面もあります。手術治療の前には”どのような声にしたいか もどりたいか”など具体的な要望をお聞きかせいただき、治療にあたるように心掛けております。
プロフェッショナルボイスに対する考え方へリンク
【Top に戻る】
|